あまだれのごとく

時々迷い込む後悔の森

1.9.2021

駅ビルの書店を出て、階段を降りたところで外気を吸う
霧雨が道を濡らしている
ほんの少しだけマスクをずらすと、ひやりと秋が薫った

同じようなぐずついた天気の日に、 同じような道のりでこの匂いをかいだ
そのときの私は、重たいブレザーとスカートに身を包んでいた

本は、当時の私のアイデンティティであり、夢であり、 なにより、延命装置だった
書店は、私が他の人と同じように呼吸を続けていくために 必要不可欠な空間だった

そのことを思うと、当時の私は
意味もわからず、座標もわからず、
バタ足で水中をさまよったまま、 塩水に傷ついた眼で、
遠くに陸らしきものを望んでいるような
そんな状態だったのかもしれない

周りの子は、水かきもあるし、呼吸法も備えているの
どうして、自分には同じことがこんなに苦しいのか
私は陸に上がりたいのに、 皆は水の中が十分に住み良くて、
誰も遠くに行く必要性を感じていないみたいだった

それでもたまに、一人で陸へ向かって泳ぎ始める子はいたけれど
なぜだか私はそれを眺めながら、
“自分はその資格が未だない”
と、その場で立ち泳ぎを続けるばかりだった

そして私はいま、皆と少し離れた場所で
やっぱり、ジタバタとその場でもがき続けている

そんなふうに、昔の記憶と今の自分をとりとめもなく往き来する
秋はきっと好きな季節だから、その分思い入れが強いから、
ちょっとだけ感傷的になりやすい