あまだれのごとく

時々迷い込む後悔の森

春は

 

 

 

冬が終わる
嵐が始まる

 

冬の寒さは残酷だ
然しながらその刃は誰にでも向けられる分だけ、
平等な命を私たちに意識させる

 

 

 

では春は?

 

暖かな日差しを向けられ、新緑が顔を出し、色鮮やかな花が目に映る
覆いを取られた私達の目に映る鮮やかな色彩は世界の美しさを訴えかけてくるだろう
それは女神の祝宴さながら

 

 

 

鏡に映し出された自分の姿を見て愕然とする
切り離されたかのような醜さをたたえていることは稀ではない

 

 始まりの季節と健やかに笑えるのは春の女神に笑いかけられた人々のみで、
女神は確かに、気まぐれに人を選ぶ、
その分冬より春の方が残酷なのではないか?

 

 

 

 

春の嵐は大地の匂いを思い起こさせる、
気まぐれな春の女神はある時は蜂蜜色の午後を降り注いでくるけれど、
突然我に返ったかのように髪を振り乱しながら怒りの突風を吹き上げることがある

 

大地の匂いは地母神の原初の香りそのもので、
私たちを人間という枠から獣へと引き摺り下ろそうとする、

 

その度に私たちは身体のだるさに引き摺るようにして進むか、
或いは気力を削がれてその場に立ち止まる

 

 

 

私は春の嵐は好きだ

 

春も、嵐も、ぜんぶ、おんなのものだ!

 

あれは、かつて人間が“人間”扱いした人間が作り出した権力と抑圧から解放させる、
まだ人間と大地の距離が限りなく近かった頃の、
原初の不可思議な力をみなぎらせているように思える

 

 

私はあの嵐が訪れるまで春を許容しないし、
また春も私の存在を受け入れようとはしないだろうと思う