あまだれのごとく

時々迷い込む後悔の森

25.12.2018

 

 

 

今日は、「くるみ割り人形」を見てきた

 

くるみ割り人形、といえば、バレエは何回か見たことがあるし、

自分でも踊った(とは言い難いけれど)ことのある演目だけど、

いまいち、はっきりとしたストーリーがあるわけではないので、

いつもふんわりとした気持ちで観ていた

 

ただ、それなりに思い入れの深い作品なのは、

これが“夢と現実の境目”を描いた作品だから、だと思う

 

私はいつも、

クララが目覚めて夢の世界から引き戻されて、

呆然とくるみ割り人形を抱えている朝の情景を見るたびに、

何故かいつも、胸が詰まる思いがして、泣きそうになってしまっていた

 

夢ほど美しくて、儚く脆いものはなくて、

それはどうやっても人間の記憶から抜け落ちてしまうし、

記録や保存が、唯一効かないもの

 

今思えば、私たちの喪失感に加えて、

その“忘れられてしまう”側のことを思って、私は悲しくなっていたのだな

 

今回の実写版は、

原作やバレエのモチーフと、オリジナリティが見事に融合されていて、

それに加えてファンタジーの古典的技法も組み合わされているのだから、

もう、流石ディズニー、としか言いようがなかった

 

冒頭の19世紀ロンドンの雪景色とクリスマス、

散りばめられたスチームパンク的世界観、

理知的で美しく、気品にあふれたクララの人物造形、

常に彼女を見守り続ける、知性の象徴、それからある登場人物を予感させるフクロウ、

現実と非現実の間に横たわる森と鳥のモチーフ、

ユニークできらびやかな衣装や装飾、

それぞれの登場人物が抱えた、痛いほどに強い想い

 

これだけじゃ、語り尽くせないけれど、

特に気になった点は、二つ

 

 

 

一つ目は、「偏見と多様性」に対するメッセージ性が強かったということ

 

例えば、王子として描かれるはずのくるみ割り人形は、

国境を守る黒人の衛兵に置き換わっていたし、

本来白塗りの化粧がスタンダードのバレエだけれど、

途中のメインのバレエシーンでは、主役は黒人のバレリーナが務めていた

 

最初は少しびっくりしたけれど、従来の画一性を重んじるのではなくて、

様々な要素が組み合わされていると、こんなにも奥行きが出て、

こんなにも世界は美しくなるのか、とハッとしてしまった

 

私もまだまだ、そういう感覚が、全然足りてないなぁ、と

 

また、科学に強い興味を持つクララの姿は、その当時からしたら異様なはずだ

今だって、そういった女性に強い偏見を持つ人は、確実にいる

その彼女が軍服を着て、敵に知性と勇敢さで立ち向かう姿は、

私たちに立ち上がる勇気を与える、と思う

 

また、マザー・ジンジャーとその世界へも、誰もが偏見を持っていた

そうだとしても、彼女は強い信念を持ち、全く諦めなかったし、

最後だって、味方をしてくれなかった誰に対しても、腹を立てることはなかった

(実は、クララの母マリーと、一番親和性が高かったのだと思う)

 

それと対照的な描かれ方をするシュガー・プラムと合わせると、

より深いメッセージが、込められているような気がするのだ

 

性別、人種、考え方、

世の中には間違ったたくさんの固定概念が広がっているけれど、

こういうものを少しずつでも、軌道修正できれば、いい

 

 

 

二つ目は、「家族愛」がテーマなのに、私の心に刺さった、ということ

 

正直いって、私はこうしたテーマの作品が苦手だ

 

というのも、私の家族は決して仲がいいわけではないし、

精神的な面で最後に頼ろうとしても、支えてくれない存在で

 

本気で話した時でも、半分も伝わらないことが多くて、

私が悪いのだろうか、といつも悩んでは腹を立てる存在で

 

「仲良くしなくてはならない」と押し付けられているような気がして、

窮屈な気持ちになってしまうから

 

それでも、ラストのシーンで私が号泣してしまったのは、

父とクララの気持ちが、痛いほどに伝わってきたからだった

 

父からすれば、内面が母親とよく似ているクララに受け入れられないのは、

とても辛いことだったに違いないし、

クララからしても、母親のことをなかったかのように振る舞う父に対して、

疑心暗鬼を募らせるのは仕方がないことなのかもしれない、

そのどうしようもないすれ違いが、痛くて

 

結局、私が自分の家族にそれを重ねたからなのか、

私はどうせそうなれないと感じてしまったからなのかは、分からないけれど

 

 

 

とにかく映画館で涙をこらえられなかったのは、

人生で初めてだったから、自分でも驚いた

 

いつもとは、違う意味で泣いた

これは悲しみではなくて、感動の涙だったはずだ

 

昨年のクリスマス、あまりいい思い出にはならなかった故に、

今年のクリスマスは、最高のプレゼントを自分にあげられたな、と思う

 

付き合ってくれた友人に感謝だなぁ、とぼんやり考えながら、

また明日に向かって、一休みしなければね