あまだれのごとく

時々迷い込む後悔の森

願わくばきっと、

 

 

一般的な女の子の夢とはなんだろう

 

 

小さい頃は、「パパのお嫁さん」とか、「お姫様」だろうか
或いは、「パン屋さん」とか「お花屋さん」などと答える子もいるだろうか

 

私は、残念ながら小さい頃の夢は思い出せない、
一体なんだったのだろう
でも一つだけ覚えているのは、そういった類のものではなかったということだ

 

小さい頃、は

 

 

 

夢とifを混同してはいけない、
現実と虚構を混同してはいけないように

 

 

私はそうやって生きてきたし、これからも生きていかなくてはならない
私が長い年月かけて造り上げた型から、今更はみ出す勇気は最早無い

 

でも、もし今だけ、そのifを文章におこすことを許されるのなら、
自らに課した封印を一瞬だけ解いても良いのなら

 

 

もしも今、自分を少しでも「装っている」自覚のある人は、
私と似たもの同士かもしれないし、そうではないかもしれないけれど、
私のこの一瞬だけの吐露を読んでいってほしい

 

そうではなかったとしても、こんな人がいるんだな、って冷やかしに来て欲しい

 

 

 

 今の私ーー時雨、と名乗ることにします

 

これが友達などによく言われるのは、
「最早女子ではない」「ガサツ」「女子力皆無」「男勝り」とかそういったワード

 

 

 

けれど、

 

願わくばきっと、私は貴族として生まれたかったのだと思う
完璧な神からの恩恵を受けて、美しく、気高く、賢明でありたかった

 

 

 

今はこんな事を言われてはいるけれど、
私は、小さい頃白くて華奢で、ぽわんとした雰囲気の子供だったという
そんな私に母は高価でふわふわとしたブランド服を着せていた

 

 

 

ついたあだ名は「姫」だった

 

 

基本的に、どこへ行っても褒められたし、貶されることは無かった
優しくて、何でも人に譲るような子だった
それに加えて、頭も悪くはなかったし、意見もはっきり言える子だった

 

 

正直いって、当時の私は利口だったと思う
けれど、ほんとうの私は今よりも遥かに聡く、冷たい子どもだった

 

 

「お父さんと結婚したい~」などという同級生を微笑みながら、
「お父さんと結婚なんて出来るわけないのに」と冷ややかな思いで見守っていた

 

「姫」と呼ばれながらも、

私は童話の手術のお姫様やディズニープリンセス達には全く興味が湧かなかったし、
そんなものになりたいと思わなかった
守られてるだけの女の子にはなりたくなかった

 

お絵描きや折り紙は嫌い、ままごとも嫌い、
母が与えるピンクの服を拒否こそせずとも、若干の違和感を感じていた

 

私は、「姫」などにはなりたくない

 

 

 

そして小学校に上がると、徐々にその「姫」らしさは消えていた
元々人と話すのに積極的ではない私は、ただの控えめな女子へと変貌していった

 

更に、小学校には私と同じ幼稚園出身の友達は少なく、
出身や住んでる場所ごとに女子の間には既にグループが出来ていて、
私は影響力のあるグループの女子と仲良くすることはできなかった

 

しかしその裏で、秘密基地作りと冒険ごっこが大好きな活発な面もあって、
男の子でも女の子でも友達となら、そんなことばかりしていた
相変わらず安くはない服を母は私に与えていたが、どろどろにして帰ってきても、
また洗えばいいだけ、と文句一つ言われたことは無かった

 

 

決して女子らしい女子ではなかったけれど、『女子であること』は辞めていなかった

 

「姫」ではなくなった私は、穏やかな気持ちで毎日を過ごしていたような気がする

 

 

 

 

そしてわたしは中学校受験のために塾に通い始める
それまで大して頭を使ってこなかったから、学校での成績は中の上位だった
けれど、私は案外頭が良かったようで、塾でも上位のクラスに常にいた、
当然学校でも一気に一番上の方まで躍り出た

 

元々女子との間にはグループという断絶があったけれど、
その時にそれはさらに顕著になった

 

 

「時雨ちゃんは頭良いもんね」
「時雨ちゃんは天才だから」
「時雨ちゃんは時雨様だから」

 

 

今まで力を握ってきた子たちがこういう風にヘコヘコしてくるのを見て、

 

「今まで無視してきた私が前に出た瞬間にこれか?」
と思った

 

同じ塾の下位クラスに通ってる子に関しては

 

「あなた達も勉強したらどう?」
って思った

 

「っていうかそんなに私と距離を置きたいんだ?」

 

そう、結局彼女達はそうやって私を遠巻きの存在にしただけだった
壁を作り上げて、

 

「ほら、あたしとあなたは違うって、ね?だからこっちにこないで」

 

 

 

この頃私は今まで話したこともなかった男子たちと仲良くなりはじめた
彼らは、どうしようもなく阿呆で、でも僻みはないし、何より対等だった
彼らと話している方が楽しかったし、
言い方は悪いが、扱いやすかった

 

この時点で分かる通り、私はこの時期多分人のことを見下してたんだと思う
いや、見下しはじめた、という方が正しいか

 

だって、いくら不愉快とはいえ、少なくとも目に見えて勉強の出来方が違った
私もただの小学生、少し鼻も高くはなる

 

 

一つだけ面倒なことがあった
ただ単に男子と仲良くしていると、必然的に噂が立つ
小学生は背伸びした恋やらなんやらの話題が大好きだ

 

そうすると女子と衝突しかねない

 

ぶりっ子だ、なんて言われたら何処とも繋がりが保てなくなるし、
何よりも、私は、男好きのぶりっ子女子ほど嫌いなものはなかったのだから

 

 

 

そこで私がとった手法は、「女子を辞める」ということだった

 

私は、『女子であること』を捨てた

 

 

 

言葉遣いは乱雑に
力一杯にはたく
たまにはドスの効いた表現を使う
出来るだけ賢く見せる

 

これで、「男子をまとめることの出来る女子らしくない女子」が完成した
さあ、後は卒業を待つだけだ

 

 

結局、私はクラスの子中で一番上位の学校に合格することが出来た
人気のある学校だったから、同じ学校、同じクラスでも何人も受けていたと思うけど、
受かったのは私一人だった

 

一番驚いたのは、受験が長引いてしまったので、
学校に登校し始めるのが遅くなってしまった時に、勝手に席替えされていた

 

女子の顔が青い
私の席はクラスでの嫌われ者の隣になっている
「はて?」と思ったところ、一人の女子が、

 

 

「時雨、全然学校来なかったから、もう来ないのかと思った」

 

 

……ほう
成程、勝手に受験に失敗したことになって、
勝手に登校拒否に仕立てあげられていたのか
何とも笑える話である、
内心穏やかではなかったけれど

 

「へぇー、そっか!」

 

まさか上位の学校にちゃんと合格したことを自分から言っても反感を買うだけだから、
最初の方は黙っていたし、この時にもいうことはなかった
聞かれたら答えるようにした

 

「私は受かった」
その優越感が辛うじてそのような対応を取ることを可能にさせていた

 

 

 

中学高校と、特に目立ったことはしていないつもりだ
そこにいたのは私と同じような学力の人、もしくはそれ以上の人だったし、
私は私のことを凡人だと思っていた

 

なのに、何故か私は特に男子から、怖い人だと思われていたし、
特にずば抜けて優秀というわけでもないのに、優秀だと思われていた
何故か私だけ、いつまでたっても、「苗字+さん」付けだった
思えば、私は小学校の時から自分を装うこと、
見栄を貼ることに慣れてしまって、いつの間にかそれを常習していたのかもしれない

 

でも、
「また壁?」

 

もう面倒くさいなぁ……

 

そして私は受験を始めてから急に太りはじめていて、
まだこの時もデブという程ではないものの、決して細くはなかった
そして私の学年の女子は頭脳明晰、容姿端麗な子が非常に多かった

 

私は鏡を覗いてみる
今ひとつパッとしない顔の白っぽい丸がこちらを覗いている……

 

 

 

そういうわけで、共学だったけれど、恋愛なぞにもとんと縁がなかった
というより、避けていたという方が近いかもしれない
禄なことにならないとばかり思っていたので、
男子とは一切関わらないようになっていた

 

この学校の女子は皆、良くも悪くも似たような子が集まっていたので、
小学校の時のように、少なくとも私の周りでは学力に伴う妬みや僻みは全くと言っていいほどなかった

 

だから仲良くできたし、無理に男子と付き合う必要もなかった
そして男子とコンタクトを取ることで変な噂を立てられて、
女子とのコネクションを失うのも避けたかった

 

後ろ指を指されるのは御免だ

 

小学校の時点で、『女子であること』を捨てていたので、
それを続けるだけでよかった。

 

 

 

 

男子からLINEなどが来ても、
「おっけー、分かりました!」
逆に送る立場でも
「○○でいいですか?」

 

業務連絡という形を崩したことは殆ど無い。
3文切りが基本だったおかげで、
私のLINEの履歴はいつ誰に見せても問題ない状態が保たれている

 

『女子らしい女子』として見られるのは困るから

 

 

課題や自分の問題なども、私は全てを基本的に依存せずにこなす
誰も信用していなかったのかもしれない

 

だってすぐ人に依存して寄りかかるのは、
『弱々しい女子』のやることでしょう?

 

周りの子が付き合ったり別れたりまた付き合ったりを繰り返し、
おしゃれに気を使い、髪の毛を巻いたり編み込んだりするのを横目で眺めながら、

 

「まあ私は『女子であること』を捨てているからな」

 

と心の中で呟く

 

その度にちくりと鈍く刺さる痛みがあった、
けど、痛くても痛くないフリは昔から得意だった、

 

だってちょっとぶつけた、すったくらいで「痛い!」と声を上げるのは
『女子らしい女子』のやることでしょう?

 

 

だって、私は『女子であること』を捨てているのだから、
それで生きやすいという恩恵を受けているのだから、
『女子らしい女子』のように振る舞うのは、反則でしょう?

 

 

 

 

常にこのような思考を働かせて生きてきた
こうやって私は私の型を造り出した
このシステムは私と一体化している、にも関わらず

 

今更なんで私は、
貴族として、尊ばれる者として生まれたかった、などと願ってしまうのだろう

 

 

 

小説が好きだ、漫画が好きだ、特にファンタジー
幼い頃に見た『指輪物語』の冒険の様子は未だ色褪せない

 

そしてその中でも色濃く残っているのは、
美しく麗しいエルフの王族の姿

 

 凛と美しい姿勢で、麗しい容姿を持って生まれた、
その賢明な横顔と流れるようなドレスに身を包んだ、
生まれながらにして「選ばれた人々」

 

人の羨望を集め、楽しませ、或いは導いていけるその魂

 

 

 

もう私には手に入らないと分かっているにも関わらず焦がれてしまう

 

欲しくて堪らないけれど、
そう振舞おうとしても、いくら私が見栄をはるのが上手かろうが、
それは私からしてみても、周りからしてみても、
ハリボテでしかなく、本当の意味を持たない

 

そもそも人を羨み、
平気で見下すような不細工な心を持つ私にはもう得る権利さえもないのは必定

 

 

 

私は現実を歩いていかなければならない

 

そしてその足枷が私にとってあまりにも重い
その有り得ないifを想像するのさえ許されないほどに

 

本当に欲しいものは手に入らないと分かっていながらも、
正反対のポーズをとって生きていくその様はまさにピエロだ

 

 

 

私のようなひねくれ者は他にはいないか

 

いるのなら返事をしてほしい、静かにさめざめと泣き腫らしながら、
それでも引きずるように前に向かって歩いていくしかないのだから